佐久市立天来記念館は、長野県佐久市に位置する書道専門の美術館で、近代書道の発展に大きく貢献した書家・比田井天来(ひだい てんらい)の業績を広く紹介する文化施設です。館内では、天来本人の作品はもちろん、彼の妻・比田井小琴(ひだい しょうきん)や門人たちによる優れた書の数々を鑑賞することができます。
1968年、望月町(現在の佐久市)にある比田井天来の生家跡に、「比田井天来生誕の地」と刻まれた記念碑が建立されました。これは、地元の有志や書道愛好家で構成される「天来の会」によって進められたものであり、これをきっかけに天来を顕彰する記念館建設への機運が高まりました。
記念館はその後の地域の熱意に支えられ、1975年(昭和50年)6月21日に正式に開館いたしました。同年の9月26日には、書道専門の美術館としては全国で初めて登録博物館の認可を受け、文化的意義の高い施設として広く認識される存在となりました。
記念館の中心となるのが「天来・小琴常設展示室」です。ここでは、比田井天来とその妻・小琴の書を中心に、彼らが実際に使用した筆や硯、落款などの愛用品も紹介されています。
特に注目すべきは、天来が提唱した筆法である「俯仰法(ふぎょうほう)」に基づく作品で、これらは独特の筆致と流麗な書風が融合した天来の代表作として高く評価されています。また、学書筌蹄(がくしょせんてい)と呼ばれる、彼の研究と臨書によって書かれた作品群や、屏風や条幅、扁額に仕立てられた書も展示されており、来館者は近代書道の美と深さをじっくりと味わうことができます。
記念館には常設展示に加えて企画展示室も設けられており、比田井天来に学んだ後進の書家たちによる作品が定期的に紹介されています。ここでは、上田桑鳩(うえだ そうきゅう)、金子鷗亭(かねこ おうてい)、手島右卿(てしま ゆうけい)、桑原翠邦(くわばら すいほう)、比田井南谷(ひだい なんこく)など、現代書道界に多大な影響を与えた書家たちの作品も展示されており、天来の教えがいかに広く深く受け継がれているかを感じることができます。
現時点では最寄駅からの徒歩圏に位置していないため、タクシーやレンタカーでの来館が便利です。詳細は佐久市の観光案内所などで事前に確認されることをおすすめいたします。
佐久市立天来記念館は、書道の美と歴史をじっくりと体感できる、全国でも珍しい書道専門の文化施設です。書に興味を持つ方はもちろん、芸術や日本文化に関心のある多くの人々にとっても、深い感動と学びをもたらしてくれる場所となっています。佐久を訪れる際には、ぜひ一度足を運び、その静謐な空間の中で、日本の書の美に触れてみてはいかがでしょうか。