信州中野銅石版画ミュージアムは、長野県中野市に位置する、芸術と歴史、そして地域の記憶を大切に伝える博物館です。正式名称は「一本木公園中野小学校旧校舎・信州中野銅石版画ミュージアム」で、中野市一本木公園施設条例に基づいて運営されています。1997年(平成9年)の開館以来、市民はもとより市外からの来館者にも親しまれ、中野市を代表する文化観光施設の一つとなっています。
ミュージアムの建物は、1896年(明治29年)に中野尋常小学校西校舎として建てられた木造洋館です。明治中期の洋風建築の特徴を色濃く残すこの校舎は、1984年(昭和59年)に一本木公園内へ移築・復元されました。その歴史的・建築的価値が高く評価され、翌1985年(昭和60年)には中野市の有形文化財に指定されています。
白い外壁と整った窓並びが印象的な外観は、かつてこの地で学んだ子どもたちの姿を想起させ、訪れる人にどこか懐かしさを感じさせます。建物そのものが、地域の近代教育史を物語る貴重な文化遺産といえるでしょう。
復元された校舎内部には、かつての姿を活かした展示空間が広がっています。民俗資料の展示室や教育関係資料室に加え、移築復元以前の教室をそのまま保存した「教室」が設けられており、明治から昭和にかけての学校教育の雰囲気を体感することができます。
黒板や机、天井の高い教室空間は、単なる展示ではなく「記憶の場」として機能し、世代を超えて多くの人々の心に響く空間となっています。1997年の整備以降は、こうした歴史的空間を活かしながら、芸術展示施設として活用され、現在に至っています。
信州中野銅石版画ミュージアムの最大の見どころは、赤川勲氏から寄贈された銅石版画コレクションです。銅版画や石版画を中心とした作品群には、平山郁夫、森田曠平をはじめとする、日本を代表する著名画家の作品が含まれています。
繊細な線描や豊かな階調、刷りの美しさは、原画とは異なる版画ならではの魅力を存分に伝えてくれます。展示を通して、版画芸術の奥深さと、作家たちの表現の幅広さをじっくりと味わうことができます。
本ミュージアムでは、版画作品に加え、中野市ゆかりの彫刻家菊池一雄の作品も展示されています。力強さと温かみを併せ持つ彫刻作品は、平面作品とは異なる存在感を放ち、展示空間に奥行きを与えています。
また、旧校舎前庭には菊池一雄作の2体のブロンズ像が設置されており、訪れる人々を静かに迎えています。芸術作品が建築や自然と調和することで、ミュージアム全体が一つの作品のような趣を醸し出しています。
中野小学校旧校舎の前庭には、中野中学校校歌碑と、そのメロディーが流れる設備が設けられています。校歌を耳にしながら校舎を眺めるひとときは、かつて学び舎に通った人々の思い出を呼び覚まします。
さらに、移築復元を記念した石碑には、高社山を背景に建てられた新校舎が、雪深い奥信濃の風土の中で多くの子どもたちを育み、地域社会の発展に寄与してきた歩みが刻まれています。明治中期の洋風建築を代表する貴重な建物として、今なお地域の心のよりどころとなっていることが伝えられています。
版画とは、紙などに直接描くのではなく、彫刻や加工を施した「版」を用いてインクを転写し、複数枚の作品を制作する美術技法、またはその作品を指します。版の構造や仕組みによって、凸版画・凹版画・平版画・孔版画の大きく4つに分類されます。
石版画、すなわちリトグラフは、油と水が反発する性質を利用した平版画の一種です。18世紀末にアロイス・ゼネフェルダーによって原理が発見され、19世紀にはロートレックなどの画家が芸術性の高い作品を数多く生み出しました。
クレヨンや筆致の質感をそのまま紙に刷り取ることができ、多色刷りも可能である点が大きな魅力です。近年では石の代わりにアルミ板を使用することが多くなっています。
銅版画は、銅板に線を彫ったり、薬品で腐食させたりして凹版を作り、そこにインクを詰めて刷る技法です。エングレービング、エッチング、アクアチントなど多様な表現方法があり、繊細で深みのある表現が可能です。日本では司馬江漢が18世紀後半にエッチングを手がけ、近代美術の発展に大きな影響を与えました。
ミュージアムが立地する一本木公園は、1984年(昭和59年)に開設された中野市を代表する都市公園です。市民の憩いの場として整備され、現在では市内外から多くの来園者が訪れています。
一本木公園は「バラ公園」とも呼ばれるほど、バラの名所として知られています。故・黒岩喜久雄氏が育てていた172種179株のバラが寄贈されたことをきっかけに整備が進み、現在では約850種・3,500株ものバラが咲き誇ります。春から初夏にかけてはもちろん、桜や宿根草など四季折々の花々が園内を彩ります。
1994年(平成6年)から開催されているなかのバラまつりは、一本木公園を代表するイベントです。毎年5月下旬から6月中旬にかけて行われ、音楽演奏や地元産品の販売、バラの栽培講習会など多彩な催しが展開されます。2009年には来場者数が9万人を超えるなど、全国的にも注目されるイベントとなっています。
園内には遊具や広い芝生、多目的広場、野外ステージ、イングリッシュガーデンなどが整備され、大人から子どもまで一年を通して楽しむことができます。展示館や信州中野銅石版画ミュージアムとあわせて訪れることで、自然・芸術・歴史を一度に満喫できる点も魅力です。
3月から11月:午前9時~午後5時
12月から2月:午前9時30分~午後4時
休館日:12月29日~1月3日
入館料:無料
上信越自動車道・信州中野ICから車で約15分。
長野電鉄・中野松川駅から徒歩約5分と、公共交通機関でもアクセスしやすい立地です。
信州中野銅石版画ミュージアムは、明治の学び舎という歴史的建築の中で、版画芸術と地域文化に触れることができる貴重な施設です。一本木公園の自然や花々とあわせて訪れることで、心豊かな観光体験を楽しむことができるでしょう。