猫ちぐら、または猫つぐらとは、新潟県および長野県の豪雪地帯を中心に古くから作られてきた、猫のための伝統的な寝床です。稲わらや紙紐などの自然素材を用い、職人の手によって一つひとつ丁寧に編み上げられる民芸品で、見た目の素朴さと機能性を兼ね備えた、日本ならではの生活文化の結晶といえます。
主に新潟県関川村、秋山郷(新潟県津南町・長野県栄村)、長岡市小国・山古志、出雲崎町などで作られており、地域によって「猫ちぐら」「猫つぐら」と呼び名が異なります。いずれも猫と人との共生から生まれた、温もりあふれる民具です。
猫ちぐらの原型は、もともと人間の赤ん坊を寝かせるための藁製の揺りかごである「つぐら(ちぐら)」でした。農作業の合間、田んぼの畦道に置いて赤ん坊を寝かせ、目の届く範囲で世話をしていたといわれています。
この生活の知恵が、いつしか家族同然に暮らす飼い猫にも応用されるようになり、猫専用のつぐらが作られるようになりました。人と動物が同じ空間で暮らしていた農村ならではの、自然な発想から生まれた文化です。
現代に伝わる猫ちぐらの多くは、雪国の住まいを思わせるかまくら型をしています。丸みを帯びたフォルムは、内部に空気をため込み、保温性を高めると同時に、猫にとって安心できる包まれ感を生み出します。
猫は暗くて狭い場所を好む習性があるため、猫ちぐらを置くと自ら中に入り、くつろぐ姿がよく見られます。屋根に開口部を設けたものや、出入口の形状に工夫を凝らしたものなど、作り手の創意工夫による多様なデザインも存在します。
猫ちぐらの最大の特徴は、主材料に稲わらを使用している点です。藁は保温性と通気性に優れ、冬は暖かく、夏は湿気を逃がして涼しく保つ性質があります。そのため、四季を通じて快適な寝床となります。
耐久性を高めるために、紙紐や合成繊維の紐を混ぜて編むこともありますが、基本は自然素材を活かした作りが守られています。猫にも人にも優しい、環境に配慮した民芸品といえるでしょう。
猫ちぐらは完全な手仕事で作られ、完成までに約一週間を要します。使用される藁の量は、コシヒカリでおよそ20把分にも及びます。編み目の強さや美しさには作家ごとの個性が現れ、「名人」と称される職人も存在します。
しかし現在、作り手の高齢化と後継者不足が深刻な課題となっています。若手作家の育成や、技術継承の取り組みが各地で模索されており、猫ちぐらは日本の民芸文化を未来へつなぐ重要な存在でもあります。
猫ちぐらは江戸後期にはすでに存在し、江戸の町でも用いられていたことが知られています。浮世絵師・歌川広重(三代目)は『百猫画譜』の中で、猫ちぐらに入る