八幡屋礒五郎は、長野県長野市に本社を構える、全国的に知られた老舗の七味唐辛子専門メーカーです。創業は江戸時代の元文元年(1736年)にさかのぼり、初代・勘右衛門が善光寺の境内で唐辛子の販売を始めたのが起源とされています。以来、約280年の長い歴史を持ち、東京・浅草の「やげん堀」、京都・清水寺の「七味家」と並んで、日本三大七味唐辛子の一つに数えられています。
創業者である初代・勘右衛門は、現在の長野市鬼無里(きなさ)出身。彼が善光寺の境内で唐辛子を売り始めたのが八幡屋礒五郎の始まりでした。当初は境内の片隅での商いでしたが、やがてその味と香りが評判となり、三代目・儀左衛門の時代には、善光寺境内の中でも格別の場所、「御高札前」に出店することが許されるまでになります。
七味唐辛子は軽くて持ち運びやすく、保存も利くため、お土産品として非常に人気がありました。参拝者の間では「善光寺参りの手形」とも呼ばれ、御朱印のように大切に持ち帰られる品だったと伝えられています。
時を経て、七代目・栄助の代には、善光寺の表参道にあたる「大門町」に立派な店舗を構えるようになりました。この場所は当時の長野市の中心地でもあり、さらなる知名度と信頼を得るきっかけとなりました。
現在では、長野県内の土産物店・スーパーに加えて、全国の百貨店など20以上の都道府県で取扱いがあります。老舗としての伝統を守りながらも、新しい挑戦を積極的に取り入れているのが八幡屋礒五郎の大きな特徴です。
2014年には、七味の素材である紫蘇・胡麻・柚子などを活用したスイーツを提供する「横町カフェ」を開業。伝統の香辛料をモダンな形で楽しむ試みが、地元客や観光客に好評を得ています。
八幡屋礒五郎の七味は、寒冷な長野の気候に合わせて生姜を加えるなど、体を温める成分が含まれている点が特徴です。そのため香りと辛味がより強く、他の地域の七味とは一線を画しています。
商品外装には、江戸時代末期の木版画から転写した押印判を使用するなど、伝統美を意識した意匠が施されています。中でも特注のブリキ缶は、現在も多くの人々に愛されており、昭和初期に六代目・栄助が考案したものです。
有名な「赤い七味缶」は、斜めに描かれた唐辛子と善光寺が印象的なデザインです。さらに、黄色い「ゆず七味缶」、毎年テーマが変わる「イヤーモデル缶」、記念用途に使える「アニバーサリー缶」など、豊富なラインナップが揃っています。
八幡屋礒五郎は、280年以上にわたって善光寺門前で親しまれてきた、伝統ある七味唐辛子の専門店です。歴史とともに育まれてきた製法と味わい、そして時代に即した柔軟な商品展開により、全国のファンを魅了し続けています。
長野に訪れた際には、善光寺参拝とともにその風味豊かな七味を味わってみてはいかがでしょうか。香り立つ唐辛子の魅力が、旅の思い出に深い彩りを添えてくれることでしょう。