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小さな絵本美術館

(ちいさな えほん びじゅつかん)

絵本の世界を愛する人々のための静かな場所

小さな絵本美術館は、長野県にある絵本を専門とする私立美術館です。絵本作家として著名なさとうわきこ(『ばばばあちゃん』シリーズの作者)が主宰し、国内外の絵本原画を中心に展示を行っています。この美術館は、絵本という芸術を愛する大人や子どもたちが、静かな環境の中で絵本の魅力に触れ、物語の世界をゆっくりと味わうことができる場所として、多くの来館者に親しまれています。

小さな絵本美術館の誕生と理念

小さな絵本美術館が誕生したのは1990年11月のこと。諏訪湖のほとり、リンゴ園の近くに岡谷本館が開設されました。その後、1997年には、八ヶ岳の麓にある長野県諏訪郡原村に八ヶ岳館が分館として設立され、現在は2つの館で運営されています。どちらの館も冬季には休館期間が設けられており、自然に寄り添うような静けさの中で四季折々の風景を楽しむことができます。

この美術館の理念には、「大人のくせに本気で、あるいはたのしみに子どもの本とつきあっている人々は、いつかどこかでみんな知り合うものだ」というスイスの絵本作家で編集者、ベッティーナ・ヒューリーマンの言葉が息づいています。この精神に共鳴したさとうわきこと、その夫であり館の運営を支えた武井利喜は、絵本を愛する人々が世代を超えてつながる場としてこの美術館を開館させました。

創設者 さとうわきこの生涯と活動

さとうわきこ(本名:佐藤和貴子/武井和喜子、1935年1月28日~2024年3月28日)は、東京市品川区で生まれ、練馬区で育ちました。1970年に発表した『せんたくかあちゃん』や、1977年の『ばばばあちゃん』シリーズが大ヒットし、絵本界に確固たる地位を築きました。その作品は、ユーモアと温かさに満ち、子どもたちの日常に寄り添いながらも想像力を刺激するものとして、多くの読者に愛されています。

一方で、彼女は創作活動だけでなく、地域の子どもたちに本を届ける活動にも情熱を注ぎました。若き日の武井利喜が自宅で運営していた「鬼のみちくさ文庫」をきっかけに、二人は多くの児童文学関係者と親交を深め、絵本文化の普及に努めてきました。こうした活動の延長線上に、小さな絵本美術館の設立という大きな夢が実現したのです。

岡谷本館 ― 諏訪湖を望む穏やかな空間

岡谷本館は、諏訪湖のほど近く、リンゴ園のそばに建てられています。周囲はのどかな田園風景に包まれ、四季折々の自然が訪れる人々をやさしく迎え入れてくれます。館内の読書コーナーでは、窓越しに富士山を望むことができ、晴れた日にはまるで絵本の一場面のような光景が広がります。

展示室には、国内外の絵本作家の原画が並びます。なかでも、フェリックス・ホフマンハンス・フィッシャーといったヨーロッパの巨匠たちの原画展を、日本で初めて開催したことで知られています。さらに、スイスの絵本作家エルンスト・クライドルフの作品も豊富に所蔵しており、ヨーロッパ絵本の繊細な色彩と詩的な世界観を間近で鑑賞することができます。

八ヶ岳館 ― 森の中のもうひとつの絵本の世界

八ヶ岳館は、八ヶ岳の麓・原村に位置する、白樺林に囲まれた静かな美術館です。木々の間を抜ける風や鳥のさえずりが響くこの場所では、まるで物語の中に迷い込んだような気持ちになります。館内は木の温もりを感じる落ち着いた空間で、訪れる人々が絵本のページをめくるように、静かに作品と向き合うことができます。

ここでは、絵本原画の展示だけでなく、絵本作りのワークショップや講演会なども行われており、大人から子どもまで絵本を通して創造の喜びを感じられる場所です。観光客だけでなく、地元の人々にとっても「心の拠りどころ」として愛されています。

出版活動と文化の継承

小さな絵本美術館は、展示活動だけでなく出版活動にも力を入れています。フェリックス・ホフマンやクライドルフの絵本を日本語で紹介する書籍を刊行し、海外絵本の魅力を広く伝える役割を果たしています。また、さとうわきこ自身の作品や、若手作家の支援を通じて、新しい絵本文化の創造にも貢献しています。

訪れる人々に寄り添う温かい場所

「小さな絵本美術館」という名前の通り、この美術館は決して大きくはありません。しかし、その空間には絵本を愛する人々の優しさと温もりが満ちています。絵本の原画を見つめながら、絵の中に込められた思いや物語の深さに触れるひとときは、日常の喧騒を忘れさせてくれる特別な時間です。

美術館を後にするころには、誰もが子どものころに感じた「物語の世界への憧れ」を思い出すことでしょう。さとうわきこが生涯をかけて伝えた「絵本の力」――それは、世代を超えて人と人とをつなぎ、心を豊かにしてくれるものです。

おわりに

小さな絵本美術館は、岡谷本館と八ヶ岳館という二つの拠点を通じて、絵本の持つ芸術性と温かさを次の世代へと受け継いでいます。絵本が単なる子どもの読み物ではなく、大人にとっても人生を映す芸術であることを教えてくれる場所――それがこの美術館の本質です。長野の自然とともに歩むこの小さな美術館は、これからも多くの人々に「物語の灯」をともしていくことでしょう。

Information

名称
小さな絵本美術館
(ちいさな えほん びじゅつかん)

諏訪・蓼科・八ヶ岳

長野県