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御射鹿池

(みしゃかいけ)

東山魁夷が描いた幻想の世界が広がる静寂の池

御射鹿池は、長野県茅野市豊平に位置する神秘的な美しさを湛えるため池です。標高約1,500メートルの高地にあるこの池は、八ヶ岳中信高原国定公園内にあり、四季折々に姿を変える風景が訪れる人々を魅了しています。池の面積はおよそ0.1ヘクタール、最大水深8メートル、貯水量は約2万6,000立方メートル。2010年(平成22年)には、農林水産省の「ため池百選」にも選ばれました。

東山魁夷の名画『緑響く』の舞台

御射鹿池が広く知られるようになったきっかけは、日本を代表する画家東山魁夷が1972年(昭和47年)に発表した名画『緑響く』です。この作品のモチーフとなったのが、まさにこの池でした。湖面に映る木々の緑が神秘的に響き合い、静寂の中に永遠を感じさせるような情景は、訪れる人々の心に深く残ります。その鏡のような水面は、自然が創り出した究極の「静寂の芸術」とも呼ばれています。

四季ごとに表情を変える幻想的な風景

御射鹿池の魅力は、季節と時間の移ろいによってまったく異なる姿を見せる点にあります。

春から夏 ― 新緑と碧の共演

春から初夏にかけては、周囲の木々が若葉で彩られ、池の水面は青や緑に輝きます。まるで絵画の中に迷い込んだかのような現実離れした色彩が広がり、訪れる人々を感嘆させます。早朝の霧に包まれる時間帯には、幻想的な静けさが漂い、まるで時間が止まったような感覚に包まれます。

秋 ― 黄金に染まる鏡の世界

秋が深まると、御射鹿池の周囲に広がるカラマツ林や広葉樹が黄金色や紅色に染まり、紅葉の絶景スポットとして多くの人が訪れます。風のない晴れた日には、鏡のような水面が紅葉を完璧に映し出し、池全体が黄金に輝くように見える瞬間もあります。

冬 ― 白銀に包まれる静寂の季節

冬の御射鹿池は、まさに「沈黙の世界」。池の一部が氷に覆われ、雪が辺り一面を包み込むと、静寂だけが支配する幻想的な空間が広がります。寒さが厳しくなるほど透明度が増し、湖面はまるで磨かれたガラスのよう。訪れる人々はその静けさに心を奪われることでしょう。

御射鹿池の誕生とその役割

この美しい池は自然湖ではなく、1933年(昭和8年)に農業用水のため池として造られた人工の池です。八ヶ岳の冷たく酸性の強い水を一時的に貯め、太陽の光で温めることで、周辺の農地での水稲栽培に適した水質へと変える目的で建設されました。

当時、この地域は「三年に一度米がとれればよい」と言われるほどの冷害常習地で、農民たちは厳しい環境に苦しんでいました。御射鹿池の完成によって水温が上昇し、酸性の度合いも緩和されたことで、農業生産が大きく改善され、人々の暮らしに希望をもたらしました。

名前の由来と神聖な背景

「御射鹿池」という名の由来は、諏訪大社の神事「御射山御狩神事(みさやまみかりしんじ)」にあります。これは、神に捧げる鹿を射る神聖な儀式で、池の周辺は古くから「神野(こうや)」と呼ばれる聖域でした。人が鍬を入れることすら許されなかった土地であり、その神聖な雰囲気は今も池の静けさの中に息づいています。

自然環境と美しい生態系

御射鹿池の湖水はpH4前後の強酸性で、魚類がほとんど生息できないほどの環境です。しかし、この独特の水質が美しい光景を生み出しています。湖底にはチャツボミゴケ(Jungermannia vulcanicola)という酸性を好む苔が生息しており、これが水面の透明感と色彩の深みを作り出す要因となっています。

周囲にはルリイトトンボやカモ、蝶などが見られ、水辺にはキキョウやユリといった在来植物が植えられています。茅野市では定期的に草刈りや枯れ木の伐採を行い、自然の景観を守る活動が続けられています。こうした努力によって、御射鹿池の清らかな美しさは今も保たれています。

アクセスと観光整備

御射鹿池へは、茅野駅西口バス1番のりばから「奥蓼科渋の湯線」に乗車し、「明治温泉入口」停留所で下車するとアクセスできます。道路では、長野県道191号渋ノ湯堀線の明治温泉口から入るルートが一般的です。

現在は茅野市によって転落防止用の柵付き遊歩道や駐車場が整備され、訪れる人々が安全に散策できる環境が整っています。また、地元の観光協議会によるガイドツアーも実施され、御射鹿池の歴史や自然について詳しく学ぶことも可能です。

まとめ ― 静寂の中に息づく自然の芸術

御射鹿池は、単なる観光地ではなく、自然と人との共存が形となった美の象徴です。季節ごとに異なる表情を見せながら、いつ訪れても心を癒やしてくれる静寂の世界。画家・東山魁夷が描いた「緑響く」のように、今もなおこの池は自然と調和した美しさを保ち続けています。

長野県を訪れるなら、ぜひこの幻想的な鏡の池を訪れてみてください。朝もやに包まれる静かな時間、夕暮れに染まる黄金の瞬間――その一瞬一瞬が、まるで一枚の絵画のような感動を与えてくれることでしょう。

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名称
御射鹿池
(みしゃかいけ)

諏訪・蓼科・八ヶ岳

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