イルフ童画館は、長野県岡谷市中央町にある美術館で、同市出身の著名な童画家・武井武雄(たけい たけお)の作品を中心に展示・収蔵している文化施設です。1998年4月18日に開館し、以来、子どもから大人まで幅広い世代に「童画」という芸術の魅力を伝え続けています。
館の愛称である「イルフ(ILF)」は、武井武雄が「古い(FURUI)」という言葉を逆に読み替えて名付けたもので、「新しい」という意味が込められています。その名の通り、童画の世界を「新しい視点」で再発見する場所として、多くの人々に親しまれています。なお、条例上の正式名称は「日本童画美術館」です。
館内では、武井武雄が生涯をかけて生み出した童画、版画、刊本(豆本)などを中心に、内外の絵本作家による企画展や、童画の発展に寄与した作品も多数展示されています。運営は岡谷市の指定管理者である公益財団法人おかや文化振興事業団が行っています。
イルフ童画館は、単なる美術館としてだけではなく、岡谷市の中心市街地の再活性化を目的とした文化・観光拠点として誕生しました。館が入る複合施設には「イルフプラザ」という名称が付けられており、その周辺の通りも「童画館通り」と呼ばれています。これにより、美術館がまちづくりの中核を担う存在として位置づけられています。
さらに、街路灯や公共施設の壁画などには、武井武雄が描いた独創的な図案がデザインとして活用され、街全体が童画の世界観をまとっています。市民の日常生活の中にも芸術が息づく、まさに「アートと暮らすまち・岡谷」の象徴といえるでしょう。
一方で、イルフ童画館は学芸員資格を持つ専門職員を配置し、作品の展示・保管・研究・教育活動を行うなど、正式な美術館としての機能も備えています。まちづくりと芸術振興を両立させた先進的な文化施設といえます。
イルフ童画館は3階建ての建物で、各階に異なるテーマと機能が設けられています。来館者は、童画の世界を体感しながら、芸術と遊びの融合した空間を楽しむことができます。
1階には、絵本や物語の世界に親しめる絵本ライブラリー「はらっぱ」があります。ここでは、ボランティアグループによる絵本の読み聞かせ会や、親子を対象としたワークショップ、ミニコンサートなどが開催され、地域の人々に愛される憩いの場となっています。
また、ミュージアムショップでは、武井武雄の作品集や刊本、オリジナルグッズ、絵本作家による展覧会関連商品などが販売されています。おしゃれでかわいらしいデザインの品々は、お土産や記念品にも最適です。
さらに、館内の喫茶コーナー「喫茶ラムラム」も人気スポットのひとつです。店名は、武井武雄が1926年に発表した刊本作品『ラムラム王』に由来しており、落ち着いた雰囲気の中でゆったりとコーヒーやスイーツを楽しむことができます。
2階には、内外の絵本作家による企画展が年間を通して開催される第1企画展示室と、アメリカの著名なイラストレーター・モーリス・センダックの原画などを展示する第2企画展示室があります。年間およそ5~6回の展示替えが行われ、訪れるたびに新しい発見がある構成です。
ここでは、童画や絵本に関する特別展、季節やテーマに沿った展示などが行われ、芸術を身近に感じることができます。子どもたちにも親しみやすい展示内容となっており、教育的な要素と楽しさが両立しています。
最上階となる3階は、武井武雄の創作活動の軌跡をたどる展示が中心です。代表的な童画、版画、刊本作品がテーマごとに展示され、年間5回〜6回ほど展示替えが行われます。
特に注目すべきは、武井が独自の造本思想に基づいて制作した刊本作品(かんぽんさくひん)です。これらは「本の宝石」と称されるほど完成度が高く、絵・文字・装丁・印刷・素材に至るまで自らが手掛けたもので、全139冊が発行されています。その芸術的価値は国内外でも高く評価されています。
さらに、余技作品展示室では、ミニアチュール(細密画)や玩具、トランプ、カルタなど、武井の遊び心あふれる創作物が紹介されています。芸術と遊びの境界を超えた彼の自由な発想を感じることができる空間です。
1925年(大正14年)5月8日、東京・銀座の資生堂ギャラリーで「武井武雄童画展覧会」が開催され、彼が初めて「童画(どうが)」という言葉を使いました。この出来事を記念し、岡谷市は5月8日を「童画の日」として制定し、日本記念日協会の認定も受けています。その普及や記念行事の運営はイルフ童画館が担っています。
武井武雄は、従来「童話の添え物」とされていた子どもの絵を独立した芸術「童画」として確立しました。その独自の画風は、大胆な構図と幾何学的な線描によって構成され、どこかユーモラスでナンセンスな魅力を放っています。彼の作品は『コドモノクニ』などの児童雑誌の挿絵や、デザイン、玩具制作、刊本作品など多岐にわたり、いまなお古びることのない新鮮な魅力を持ち続けています。
また、武井は郷土文化への関心も深く、日本全国の郷土玩具や郷土菓子を収集し、『日本郷土菓子図譜』(全3巻)をまとめるなど、民俗学的な分野にも貢献しました。
イルフ童画館は、岡谷市の文化的象徴であり、武井武雄が築いた「童画」という芸術の世界を今に伝える貴重な美術館です。彼の創造力と美意識が息づく空間は、訪れる人々に懐かしさと新しさ、そして想像する楽しさを教えてくれます。
親子で訪れて絵本の世界を楽しむもよし、芸術として童画を鑑賞するもよし。イルフ童画館は、世代を超えて心に残る「童心の美術館」として、これからも多くの人々に愛され続けることでしょう。