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サンリツ服部美術館

(はっとり びじゅつかん)

諏訪湖畔に佇む静寂の芸術空間

諏訪の自然と調和する美の殿堂

サンリツ服部美術館は、長野県諏訪市、諏訪湖のほとりに静かに佇む美術館です。公益財団法人サンリツ服部美術館が運営し、日本や東洋の古美術から西洋近代絵画まで、幅広い時代と地域の芸術作品を収蔵しています。その数はおよそ1,400点にのぼり、国宝や重要文化財を含む珠玉の名品が揃っています。館の隣には北澤美術館本館があり、諏訪湖周辺の文化ゾーンの一角を担っています。

サンリツ服部美術館は、四季折々に美しい諏訪湖を望む建物自体も大きな魅力のひとつです。建築家・内井昭蔵の設計による建物は、自然の景観と調和しながら、芸術作品の静けさと深みを引き立てています。

国宝「白楽茶碗 銘 不二山」 ― 光悦が遺した奇跡の逸品

サンリツ服部美術館の象徴ともいえる作品が、国宝「楽焼白片身変茶碗 銘 不二山」です。これは、桃山時代の芸術家・本阿弥光悦の代表作として知られ、日本の茶道文化における最高峰の名碗とされています。

この茶碗は、焼成の際に偶然生まれた白と黒の対比が、まるで富士山の姿を思わせることから「不二山」と名付けられました。さらに、「二つとできぬ不二の茶碗」という意味も込められていると伝えられています。内箱の蓋には光悦自身が「不二山 大虚菴(印)」と記しており、伝世する光悦茶碗の中で共箱が残る唯一の作例として極めて貴重です。

また、この茶碗は「振袖茶碗」とも呼ばれています。光悦の娘の振袖の布を用いた小袋に納められ、娘の嫁入り道具として伝わったという逸話が残されています。その後、江戸時代には姫路藩主酒井家に伝来し、今日まで大切に受け継がれてきました。

多彩な収蔵品 ― 東洋と西洋が融合する芸術の宝庫

日本美術の名品群

館内には、「白楽茶碗 銘 不二山」をはじめとする茶道具のほか、平安から江戸時代にかけての絵画・書蹟・工芸品が数多く展示されています。
代表的な重要文化財として、「絹本著色孔雀明王像」「紙本著色三十六歌仙切」、そして「北野天神縁起残闕(弘安本)」などが挙げられます。

また、室町時代の水墨画家による「山水図(青山白雲図)」や、中国絵画の影響を受けた「桃花小禽図」なども展示され、東アジアの芸術文化の流れを感じることができます。

陶磁器・書跡の至宝

陶磁器では、鍋島焼「色絵芙蓉菊文皿」や、塩原家旧蔵の古九谷焼の大皿など、名窯の逸品が揃います。
書跡分野では、兀庵普寧墨蹟大燈国師墨蹟など、禅の精神を伝える筆跡が見どころです。いずれも、筆致の力強さや墨の濃淡に、精神性と美の調和が感じられます。

創設の背景 ― 服部家の美と技の系譜

この美術館は、服部時計店(現・セイコーホールディングス)の3代目社長・服部正次(1900〜1974)と、その長男でセイコーエプソン社長を務めた服部一郎(1932〜1987)、そして関連会社のサンリツ工業株式会社のコレクションを展示するために、1995年(平成7年)に開館しました。

服部正次は、セイコーを世界的ブランドへと成長させた実業家であると同時に、深い教養と美意識を持つ茶人としても知られています。彼が「山楓(さんぷう)」の号を名乗っていたことからも、茶の湯への造詣の深さがうかがえます。その趣味と美学は、義父であり製薬会社・三共(現・第一三共)の創業者にして茶人・美術収集家の塩原又策(1877〜1955)の影響によるものです。

この塩原家から受け継いだ陶磁器や工芸品も、サンリツ服部美術館の重要なコレクションの一部をなしています。経済界と芸術文化を橋渡しする服部家の美意識が、この美術館の根底に流れています。

施設情報とアクセス

サンリツ服部美術館は、JR中央本線上諏訪駅西口から徒歩約15分の場所にあります。諏訪湖を一望できる美しいロケーションにあり、湖畔の散策とあわせて訪れる人々に癒やしと感動を与えます。

また、館内は落ち着いた雰囲気に包まれ、展示室では静寂の中で作品と向き合うことができます。四季ごとに変わる企画展も行われており、何度訪れても新しい発見がある美術館です。

まとめ ― 茶の心と美の精神を受け継ぐ美術館

サンリツ服部美術館は、単なる美術館ではなく、日本文化の精神と美意識を伝える場所です。服部家の文化的遺産、そして光悦や塩原又策といった美の巨人たちの魂が息づく空間には、時代を超えて人々を魅了する静かな力が宿っています。
諏訪湖を望む穏やかな環境の中で、茶道と芸術、そして日本人の「わび・さび」の心を感じてみてはいかがでしょうか。

Information

名称
サンリツ服部美術館
(はっとり びじゅつかん)

諏訪・蓼科・八ヶ岳

長野県