鈿女神社は、長野県北安曇郡松川村に鎮座する由緒ある神社です。芸能の神様として知られる天鈿女命(あめのうずめのみこと)をお祀りしており、地元では「おかめ様」と親しまれています。安曇野の田畑に囲まれた静かな環境に位置し、訪れる人々に穏やかな時間を与えてくれる場所として知られています。
祭神である天鈿女命は、日本神話に登場する芸能の始祖神であり、舞や踊りを通して人々に福をもたらす神様とされています。おたふくやおかめといった親しみやすい姿で表現されることも多く、福の神として全国で信仰を集めています。
多くの神社では天鈿女命と猿田彦命を一緒にお祀りする場合が多いのですが、鈿女神社では本殿に天鈿女命のみを祀る一神奉斎をしている点が特徴的です。猿田彦命は境内の末社に祀られており、この配置は全国的にも珍しい形態とされています。
鈿女神社は明治時代(1868~1912年)に創建されました。創建当初から「おかめ様」として親しまれ、福利や健康にご利益があるとされ、多くの人々が参拝に訪れました。昭和初期には特に賑わいを見せ、門前には料亭や旅館、土産物店などが立ち並び、参拝客で活気にあふれていました。
当時の参拝帳には、月に5,000~6,000人もの人々が訪れていた記録が残っており、その隆盛ぶりをうかがうことができます。昭和5年(1930年)には、神社前に「おかめ前駅」という駅が設置され、参拝者の利便性を高めました。その後、駅名は国営化の際に「北細野駅」と改称されています。
しかし、戦時下の不安定な情勢や社会状況の変化とともに参拝者は減少し、現在では当時のような賑わいを感じることは難しくなっています。境内は静寂に包まれ、周囲には田園風景が広がり、落ち着いた雰囲気の中で参拝できる場所となっています。
長野県内には岡谷市、下諏訪町、茅野市にも鈿女神社が存在しますが、これらは松川村の鈿女神社から分祀されたものと伝えられています。
昭和6年(1931年)に建立された本殿は、天鈿女命をお祀りする神聖な場所です。松川村指定有形文化財に認定されており、地域の歴史を物語る建築物としても価値があります。
境内の末社には猿田彦命が祀られています。天鈿女命と深い関わりを持つ神として信仰され、参拝者は両社に手を合わせることで更なるご利益を願います。
神社の参道に架かる「心清橋」は、前川を渡るための神橋です。セメントを使わず、直方体の石を積み上げただけで作られており、素朴ながらも堅牢な造りが特徴です。本殿とともに松川村の有形文化財に指定されています。
JR大糸線「北細野駅」から徒歩約7分、駅から西へ400メートル進むと神社に到着します。駅から近いため、参拝や観光に非常に便利です。
国道147号から西へ200メートルと、車でも訪れやすい立地です。安曇野観光の際に立ち寄るスポットとしても適しています。
「おかめ」は日本の伝統的な仮面の一つで、丸顔で愛嬌のある女性の姿を表現しています。お多福や阿多福と呼ばれることもあり、豊かさや幸福を象徴する存在です。能楽や狂言、文楽などの伝統芸能にも登場し、日本文化の中で親しまれてきました。
鈿女神社が「おかめ様」と呼ばれるのは、この文化的背景に由来し、芸能の神としての天鈿女命と、おかめ信仰が結びついたものと考えられます。
鈿女神社は、天鈿女命を一神奉斎する珍しい神社であり、芸能の神様「おかめ様」として地域に根付いた信仰を持っています。往時は多くの参拝者で賑わい、現在は静けさの中で心を整えられる空間として、訪れる人々に安らぎを与えています。歴史と文化を感じられるこの神社は、松川村観光の立ち寄りスポットとしておすすめです。