有明山(ありあけやま/ありあけざん)は、飛騨山脈(北アルプス)に連なる常念山脈の前衛に位置する、標高2,268メートルの山です。山体のすべてが長野県内に属し、安曇野の西方に堂々たる姿を見せています。その均整のとれた台形の山容は富士山を思わせることから、「有明富士」や「信濃富士」「安曇富士」とも呼ばれ、古くより郷土を代表する名峰として親しまれてきました。
JR大糸線・有明駅の西北西約10キロメートルに位置し、安曇野の田園地帯や市街地からも美しい姿を望むことができます。北アルプスの主稜線に連なる名峰群とはやや独立した位置にあるため、その端正な山容はいっそう際立ち、四季折々に異なる表情を見せてくれます。
有明山は新生代の隆起によって形成され、山体は黒雲母花崗岩から成ります。風化が進んだ急峻な地形には、奇岩や巨石、滝などが点在し、変化に富んだ景観をつくり出しています。山頂部は北岳・中岳・南岳の三つのピークからなり、最高点は北岳です。北岳と南岳の間には二等三角点が設置されています。
森林限界帯が明瞭ではないため、冬季でも山全体が真っ白に覆われることは比較的少なく、黒々とした山肌が印象的です。これが北アルプスの大雪原とは異なる独特の景観を生み出し、有明山ならではの存在感を際立たせています。
山域は開発の手がほとんど及んでおらず、コメツガやシラビソなどの原生林が広がっています。亜高山帯にはイワナシ、コケモモ、シャクナゲ、シラタマノキなどが自生し、季節ごとに可憐な花や実を楽しむことができます。動物相も豊かで、ニホンツキノワグマ、ニホンカモシカ、ニホンジカ、ニホンリスなどが生息しています。自然の奥深さを感じられる山域として、自然愛好家にも高く評価されています。
有明山の名の由来には神話が伝えられています。天照大神が天岩戸にお隠れになった際、天手力男命が岩戸を投げ、その岩戸がこの山に落ちたことで世が再び明るくなった、という伝説です。「有明」という名には、夜明け前のほのかな明るさという意味があり、神話と結びついた霊山としての性格を今に伝えています。
古くは「取放山」「戸放が嶽」などとも呼ばれ、時代とともに名称が変遷してきましたが、いずれも神話的背景を感じさせる呼び名です。
有明山は古来より霊山として崇敬され、多くの和歌にも詠まれてきました。西行法師や藤原定家、後鳥羽院らがその姿を歌に詠み、文学の世界でも名高い存在です。信仰の山としての歴史は深く、1721年(享保6年)には修験者・宥快が開山し、山頂には小祠が建立されました。
明治時代まで修験者による登拝が盛んに行われ、1873年には木喰天明行者が黒井沢からの修験道を開設しました。1912年には英国人宣教師ウォルター・ウェストンが登頂し、近代登山史の一頁を飾っています。1934年には南部が中部山岳国立公園に指定され、現在もその自然は大切に守られています。
有明山は信仰登山の歴史を持つ山ですが、現在では一般登山者にも親しまれています。隣接する燕岳などに比べると登山者は少なく、静かな山歩きを楽しみたい方に適しています。
中房温泉から有明登山口(有明荘)を経て北岳へ至るルートで、現在もっとも利用されています。
不動の滝などを経由する変化に富んだルートで、歴史ある登拝路の一つです。
石碑が並ぶ信仰色の濃い道で、妙見滝や白河滝など見どころも豊富です。
山麓の宮城地区には有明山神社が鎮座し、有明山を御神体として祀っています。本宮(里宮)のほか、山頂の中岳・南岳には奥大宮があります。春には参道沿いに約200本の桜が咲き誇り、多くの参拝者で賑わいます。
毎年7月中旬には「有明山登拝(奥社祭)」が開催され、一般参加も可能です。裕明門や手水舎、神楽殿の天井板絵、詩歌集『残月集』などは市指定文化財となっており、歴史的価値の高い文化財が残されています。
参道を進むと、安曇野神話「八面大王伝説」にまつわる魏石鬼の岩屋もあり、神話と歴史が息づく空間を体感できます。
有明山は常念山脈北部の清水岳から派生する尾根の最南端に位置しています。周辺には燕岳、大天井岳、常念岳など名峰が連なり、北アルプスの雄大な景観を形づくっています。
山から流れ出る水は信濃川水系に属し、日本海へと注ぎます。黒川沢や芦間川の上流部には妙見滝や不動滝などの美しい滝があり、清冽な水と原生林が織りなす自然景観は訪れる人の心を潤します。
長野自動車道・安曇野インターチェンジから車で約30分。普通車約30台分の駐車場があります。JR大糸線・穂高駅からはタクシーで約20分、または季節運行の中房温泉行きバスを利用し「有明山神社」バス停で下車します。
有明山は、その美しい山容と豊かな自然、そして深い信仰の歴史を併せ持つ安曇野の象徴的な存在です。登山を楽しむ方はもちろん、山麓の神社参拝や四季折々の景観を楽しむ観光にも最適な場所です。霊峰としての静謐さと、北アルプス前衛の雄大な自然を体感できる有明山は、訪れる人に深い感動を与えてくれることでしょう。