長野県 > 安曇野・白馬 > 本陣 等々力家

本陣 等々力家

(ほんじん とどりきけ)

安曇野の歴史を今に伝える由緒ある屋敷

本陣 等々力家は、長野県安曇野市穂高等々力に位置する、江戸時代から続く歴史的建造物です。松本城主が狩猟の際に休憩所として利用したことから「本陣」と呼ばれ、地域の政治・経済・文化の中心として重要な役割を果たしてきました。現在も当時の面影を色濃く残す屋敷や庭園が保存され、安曇野市の有形文化財として大切に守られています。

格式ある建築と文化財指定

等々力家の屋敷は、主屋や座敷、裏座敷、長屋門、そして五棟の蔵から成る壮麗な構えを有しています。特に、堂々とした長屋門は安曇野市有形文化財に指定され、訪れる人々を歴史の世界へと誘います。また、庭園には樹齢およそ400年と伝わるビャクシン(イブキ)がそびえ、こちらも市の天然記念物として保護されています。庭園は桃山時代中期の様式「須弥山石組(しゅみせんいわぐみ)」の意匠を残しており、江戸中期に整えられた書院や長屋門とともに、当時の建築文化を今に伝えています。

等々力家と地名の由来

「等々力(とどりき)」という地名は、かつて「とどろき」と読まれることもありましたが、江戸時代の文献『信濃国郷村帳』(1647年)や『信濃国郷帳』(1702年)に「トドリキ」とルビがあることから、現在の読みが正式とされています。地名の起源は、滝や沢の音が“とどろく”こと、あるいは水が滞る地形から生まれたとされ、水にまつわる自然環境と深い関わりを持っていると考えられています。

この地は穂高川と中曽根川(旧扉川)の自然堤防上に形成された集落で、背後には鳥川や本沢が流れ、肥沃な水田地帯を有していました。縄文時代の土器も出土しており、古代から人々が暮らしていたことがうかがえます。

等々力氏の由緒と武家としての歩み

等々力家を代々治めてきた等々力氏は、飛鳥時代の斉明天皇2年(656年)に大和国からこの地に遣わされた田村守宮を祖とし、古くから仁科氏の被官として仕えてきました。室町時代には『大塔物語』に名が見え、仁科氏とともに信濃国の戦乱に参加した記録が残っています。

戦国時代、武田信玄が信濃を支配下に置いた際、等々力氏は仁科盛信に従い穂高地方を治めました。永禄10年(1556年)には、信玄に対し忠誠を誓う起請文に「等々力豊前守定厚(または政景)」の名が記され、武士としての地位を確立していたことが分かります。また、天正8年(1580年)には、仁科盛信が穂高に馬市を開く際、等々力治右衛門尉にその監督を任せた文書が残っており、地域経済にも深く関与していました。

江戸時代の本陣としての役割

江戸時代に入ると、等々力家は郷士・庄屋として地域の行政を担い、松本藩の御用地でもある狩猟場(鴨場)を管理する立場にありました。松本城主が野行(のぎょう)に出る際には等々力家が本陣として利用され、殿様の休憩や宿泊の場となりました。こうした歴史から「本陣 等々力家」という名が今も残されています。

また、松本藩の交通・物流の要衝であった万水川や穂高川の流域に位置していたため、犀川通船の開通後は、等々力の地は物資の集散地としても発展しました。このように、等々力家は地域の政治・経済・文化の中心として機能していたのです。

屋敷と庭園 ― 武家の美意識を今に伝える

等々力家の屋敷構えは、格式ある長屋門の奥に主屋があり、その奥に殿様専用の座敷や裏座敷が設けられています。屋敷の内部は、質素ながらも格調高い造りで、江戸時代中期の武家屋敷の典型とされています。庭園は桃山様式の流れをくむ優美なもので、池泉回遊式の配置が特徴です。石組や植栽の配置にも工夫が凝らされ、四季折々に美しい表情を見せます。

文化の継承と現在の姿

等々力家は、地域の歴史と文化を今に伝える貴重な文化遺産として、一般公開されています。春から秋にかけて見学が可能で、建築や庭園のほか、当時の生活用品や文書なども展示されています。開館時間は8時30分から16時30分までで、冬季(12月~3月頃)は休館となります。

また、等々力家の子孫には、古美術界で知られる等々力孝志氏や、古典文学研究家として全国で講演活動を行う深草彬氏がいます。長きにわたり学問と芸術の分野で活躍しており、家の伝統が今も息づいていることを感じさせます。

アクセス情報

所在地は長野県安曇野市穂高等々力2945。JR大糸線・穂高駅から徒歩約15分とアクセスも良好です。ゴールデンウィークや夏の観光シーズンには、穂高駅から「あづみ野周遊バス」が運行され、気軽に訪れることができます。

本陣 等々力家は、安曇野の穏やかな風景の中にひっそりと佇みながら、今もなお武家の誇りと格式を静かに伝え続けています。安曇野の歴史を深く知りたい方には、ぜひ一度足を運んでいただきたい名所です。

Information

名称
本陣 等々力家
(ほんじん とどりきけ)

安曇野・白馬

長野県