大王わさび農場は、長野県安曇野市に広がる日本最大級のわさび農場であり、安曇野を代表する観光スポットとして国内外から多くの人々が訪れます。面積はおよそ15ヘクタールにも及び、年間収穫量は約90トン。北アルプスの雪解け水を利用した豊かな湧水が、わさび栽培に最適な環境を生み出しています。年間の来場者数は数十万人から100万人を超えるとも言われ、その人気は安曇野観光の中心的存在です。
農場の最大の特徴は、北アルプスから湧き出る豊富な清流を利用したわさび栽培です。湧水の量はなんと1日12万トン、水温は年間を通じて13〜15℃に保たれています。この安定した冷水環境が、香り高く辛味のバランスが取れた上質なわさびを育てるのです。栽培されている品種には「長野23号」「真妻」「正緑」などがあり、それぞれ独特の風味を持ちます。
農場内は広大な敷地にわさび田が整然と並び、透き通る水面が太陽の光を受けてきらめきます。黒い寒冷紗(かんれいしゃ)が張られる夏の時期には、緑の畑と黒い布のコントラストが印象的な風景を作り出します。場内には木陰の遊歩道や「涼風の小道」「ポプラ小径」などの散策コースが整備されており、四季の移ろいを感じながらのんびりと歩くことができます。
農場の象徴的存在として知られるのが、映画監督・黒澤明の作品『夢』のロケ地となった水車小屋です。蓼川の清流に設けられたこの水車は、今もなおゆっくりと回り続け、訪れる人々に懐かしい日本の原風景を感じさせます。内部には撮影当時のパネルや資料が展示され、映画と安曇野の自然が見事に融合した世界を垣間見ることができます。
大王わさび農場では、見て楽しむだけでなく食べる楽しみも充実しています。名物の「わさびソフトクリーム」や「わさびコロッケ」は観光客に大人気で、爽やかな辛味と風味がクセになる味わいです。また、レストランや蕎麦処では、すりたての生わさびを使ったそばや丼などが提供され、わさびの新しい魅力を堪能できます。おみやげ処には、わさび漬けやわさびおかき、わさびドレッシングなどの加工品が豊富に揃い、旅の思い出にぴったりです。
大王わさび農場の始まりは、1915年(大正4年)にさかのぼります。初代経営者が扇状地の豊富な湧水に注目し、荒れ地だったこの場所をわさび栽培地として開拓することを志しました。5町村にまたがる土地所有者との交渉に2年を費やし、1917年(大正6年)にようやく開拓に着手。その後も地道な努力を重ね、1926年(大正15年)には「大王畑」が完成。さらに1935年(昭和10年)までおよそ20年にわたる開拓事業が続きました。
戦後は有限会社として再編され、1961年には「東畑」が完成。1976年には売店が建設され、同年の夏には皇太子ご夫妻(現・上皇ご夫妻)も訪問されています。1982年にはレストラン棟が竣工し、観光施設としての整備が進みました。1985年には環境庁(現・環境省)の名水百選に「安曇野わさび田湧水群」として選ばれ、その名が全国に知られるようになります。1997年には新社屋と工場が完成し、2021年には株式会社として新たな体制で運営が続けられています。
農場内には見どころが多く、自然と文化が融合した魅力的な空間が広がっています。
これらの施設は、訪れる人が自然を感じながら学び、味わい、楽しめるように工夫されています。
「大王」という名称は、敷地内にある大王神社に由来しています。この神社には、安曇野の民話に登場する伝説の人物「八面大王」の胴体が埋葬されていると伝えられています。大王神社は地域の守り神として信仰を集め、農場の名前の源となりました。
大王わさび農場は、名水百選にも選ばれた安曇野わさび田湧水群の一角に位置しています。この地域は、常念山脈を水源とする犀川、穂高川、高瀬川が形成する複合扇状地の末端部にあり、地下水が豊富に湧き出す場所です。その水量は一日70万トンにも達し、透明で冷たい湧水が安曇野のわさびやニジマスなどを育てています。1995年には「水とロマンあふれる安曇野」として水の郷百選にも選定されました。
大王わさび農場へは、JR大糸線・穂高駅からタクシーで約10分、徒歩では30分ほどの距離にあります。観光シーズンには「あづみ野エンジョイバス」も運行され、穂高駅や明科駅からアクセス可能です。自動車の場合は無料駐車場が整備されており、ファミリーや団体旅行にも便利です。
大王わさび農場は、安曇野の自然と人々の努力が生み出した清流と緑の楽園です。美しい水車の風景、澄んだ湧水、広大なわさび田が織りなす風景は、訪れる人の心を癒し、安曇野の豊かさを象徴しています。四季折々の風景とともに、自然の恵みと伝統が息づくこの場所は、何度訪れても新たな発見がある安曇野の宝と言えるでしょう。