別所川は、長野県東筑摩郡筑北村を流れる信濃川水系の一級河川です。筑北村の豊かな自然と深い山々に抱かれながら北へと流れ、周辺の地形や歴史、そして人々の暮らしに深く関わってきました。その流れはわずか12キロメートルほどと短いものの、川沿いには美しい滝や峡谷が点在し、訪れる人々を魅了します。
別所川の源は、筑北村と松本市の境にそびえる虚空蔵山(こくうぞうやま)です。山の北側に位置する筑北村乱橋(みだればし)が上流端とされ、ここで乱橋川と大門川が合流して別所川が始まります。その後、川は筑北村を北へと流れ、途中で数多くの支流を合わせながら麻績川へと合流します。
川の全長は約12キロメートルと比較的短いものの、川幅は狭く、流路は激しく蛇行しており、険しい山間を縫うように進みます。上流の大滝から砥石沢合流点にかけては、山地の隆起と川の侵食によって形成された見事なV字谷が広がり、信州の地形の美しさと力強さを感じさせる景観が続きます。
別所川には多くの支流が流れ込みます。代表的なものとして砥石沢(といしざわ)、伊切沢(いきりざわ)、池塔川(いけとうがわ)、菖蒲沢(しょうぶざわ)、小仁熊川(おにくまがわ)、寺沢(てらざわ)が挙げられます。これらの沢や川が複雑に交わりながら、豊かな自然景観と独特の地形を形づくっています。
特に砥石沢には、別所川へ合流する手前に美しい滝があり、「湯仏の滝」として知られています。この滝の上流に広がる峡谷は「滝上峡(たきうえきょう)」と呼ばれ、四季折々の自然の彩りが楽しめる名勝地です。春には新緑、秋には紅葉が見事で、訪れる人々を魅了します。
別所川の中でも特に有名なのが「大滝(おたき)」です。この滝は『本城村誌』では「不動滝」あるいは「御不動滝」とも呼ばれています。JR篠ノ井線の西条駅から西に向かい、矢越トンネルへと続く道の途中で川沿いの小道に入ると、鬱蒼とした木々の中に大滝が現れます。
大滝は、滝口から折れ曲がるようにして約9メートルの高さを落下し、その下でさらに約4メートル落ちる二段の滝です。上段の滝はマグマが冷えてできたひん岩、下段の滝は砂岩と砂質泥岩が層をなす地層の上に形成されています。一般的に、砂岩や泥岩は柔らかく滝を形成しにくい岩質ですが、この地域ではマグマの熱により岩が硬化し、強固な造瀑層を生み出しています。そのため、大滝は長い年月を経ても形を保ち続けるといわれています。
この地質的な特徴がもたらす滝の姿は非常に美しく、また科学的にも興味深い存在です。滝の周囲には清流が流れ、夏には涼を求める人々が訪れます。秋の紅葉の時期には、滝と紅葉が織りなす風景が絶景となり、写真愛好家たちにも人気のスポットです。
砥石沢にかかる「湯仏の滝」は、別所川との合流点の手前約100メートルに位置しています。滝は二手に分かれて流れ、左側の滝は約10メートルの落差を一気に落ち、右側の滝は4メートル下の甌穴(ポットホール)にいったん落ちたあと、さらにもう一段落下する二段滝の形をしています。水が滑るように流れ落ちる岩肌の曲線が美しく、まるで自然が彫刻を施したかのような造形です。
この滝の上流に広がる滝上峡は、険しい岩壁と緑豊かな樹林が織りなす渓谷で、古くから名勝として知られています。『本城村誌』によると、滝上峡という名は、この滝の上に広がる地形から由来しているとされています。静寂の中に響く滝の音は心を洗い、自然の力を肌で感じられる場所です。
別所川の支流である小仁熊川には、小仁熊ダム(おにくまダム)が建設されています。このダムは筑北村(旧本城村)富蔵地区に位置し、信濃川水系犀川の支流・麻績川に注ぐ別所川と並行して流れる川にあります。正式には富蔵ダム(とくらダム)という愛称を持ち、高さ36.5メートルの重力式コンクリートダムとして、洪水調節、不特定利水、上水道の供給など多目的な役割を果たしています。
ダム湖の上には長野自動車道の橋がかかり、走行中の車窓からは小仁熊ダムの全景を望むことができます。周辺には「やすらぎスポーツ広場」や「道の駅さかきた」、「西条温泉」などの観光施設もあり、地域の憩いの場としても親しまれています。
別所川と筑北村を流れるもう一つの川、東条川との間には、かつて興味深い地形的現象が起こっていました。それが「河川争奪」です。もともと、現在の別所川や小仁熊川の上流にあたる乱橋川・大門川・八木沢・木合沢の四つの川は、東条川の支流でした。しかし、地形変動と侵食の進行によって、小仁熊川が南へ延び、これらの流れを取り込んでいったのです。その後、別所川がさらに勢力を広げ、現在のように乱橋川・大門川を自らの流れに取り込む形になったと考えられています。
このような河川争奪の痕跡は、地形学的にも貴重な研究対象であり、筑北村の自然史を語るうえで欠かせない存在です。
別所川は、ただの山間の小さな川ではありません。その流れは、地質・地形・歴史・信仰といった多様な要素を抱き込みながら、信州の自然の豊かさと力強さを象徴しています。大滝や湯仏の滝などの景勝地では、自然の造形美とともに、悠久の時を超えて続く大地の営みを感じることができます。さらに、小仁熊ダムなど現代の施設も地域の暮らしを支え、自然との共存を体現しています。
四季折々に表情を変える別所川の流域は、静けさの中に力強い生命の息吹を秘めた場所です。訪れる人は、清流のせせらぎに耳を傾けながら、信州の自然と時間の流れを心ゆくまで感じることができるでしょう。