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中房温泉

(なかぶさ おんせん)

北アルプスの懐に抱かれた歴史ある名湯

中房温泉は、長野県安曇野市の山あいに静かに佇む温泉地で、江戸時代から続く由緒正しき老舗旅館を中心に発展してきました。標高1,462メートル、北アルプス・燕岳の中腹に位置し、澄んだ空気と豊かな自然、そして源泉掛け流し100%の湯が訪れる人々を魅了します。「日本百名湯」にも選ばれ、さらに温泉の成分である膠状珪酸および珪華が国の天然記念物に指定されているほか、旅館の建造物7棟が国の登録有形文化財として登録されているという、文化的にも貴重な温泉です。

北アルプス登山の玄関口にある温泉地

中房温泉は、安曇野市の中心部から県道327号線を上り、中房川沿いに進んだ先にあります。周辺は中部山岳国立公園に属し、手つかずの自然がそのまま残る地域です。夏になると、燕岳や表銀座縦走路への登山口として多くの登山者で賑わい、秋には中房渓谷の紅葉が見事な彩りを見せます。一方で、冬季は深い雪に覆われるため、訪れることができるのは春から秋にかけての期間のみです。

温泉地周辺では、摂氏95度にも達する高温の源泉が豊富に湧き出しており、約1キロメートルの範囲に数十か所の湧出口があります。湯量の豊富さと泉質の良さが、この地が「温泉天国」と呼ばれる所以です。

伝説とともに歩む温泉の歴史

中房温泉の起源には、古代伝説「魏石鬼八面大王」の物語が関係しています。この伝説にはすでに温泉の存在が語られており、当地が古くから湯の湧く地として知られていたことが分かります。現在の温泉宿としての始まりは江戸時代の文政4年(1821年)。信濃国松本藩の命を受けた百瀬茂八郎が、明礬(ミョウバン)採取とともに湯小屋を建てたのが始まりとされています。

当初は明礬の採掘が主な産業でしたが、明治時代に入ると温泉業へと転換。6代目の百瀬亥三松は温泉地の開発に力を注ぎ、プールやテニスコートを整備するなど、近代的なリゾート地としての発展を目指しました。彼とその子孫たちはまた、燕岳から槍ヶ岳へと続く「表銀座縦走路」の整備にも尽力し、殺生ヒュッテやヒュッテ西岳といった山小屋を建設して登山文化の発展に貢献しました。

自然と一体化した多彩な温泉

中房温泉の魅力は、なんといっても多様な浴場にあります。源泉は全部で36か所もあり、いずれも90度前後の高温。空冷・水冷によって適温に調整しながらも、一切加水せず、循環や消毒を行わない純粋な掛け流しです。浴槽は毎日すべての湯を入れ替えるという徹底ぶりで、湯の鮮度を保っています。

招仙閣側の浴場

旅館の中心にある招仙閣には、内風呂として最大規模を誇る「大浴場」や、露天の「岩風呂」があります。岩風呂では、湯煙の向こうに広がる山並みを眺めながら入浴でき、朝焼けの美しさは格別です。

ロッジ側の浴場

ロッジには2階建て構造の「大湯」があり、地階は内風呂、1階は露天風呂となっています。また、「不老泉」や「御座の湯」など、歴史を感じさせる浴場も人気です。特に御座の湯は、松本藩主やイギリス人登山家ウォルター・ウェストンも浸かったと伝えられる由緒ある湯です。

露天・貸切風呂

滝を背にした「滝の湯」や月明かりを眺める「月見の湯」、切り株をくり抜いた「根っこ風呂」など、自然と一体になれる露天風呂が数多くあります。さらに、温泉の地熱を利用した「地熱浴場」や「蒸風呂」などもあり、まさに自然のエネルギーを全身で感じられる癒しの空間です。

文化財としての価値と保存

中房温泉は、その長い歴史と独特の建築美から、国の登録有形文化財にも指定されています。明治時代中期の建築である「中房温泉本館菊」は木造2階建ての湯治場建築の典型で、ウェストンも宿泊したと伝えられています。また、江戸時代の「土蔵」や「田村薬師堂」なども現存し、温泉の歴史を今に伝えています。

さらに、温泉から生まれる「膠状珪酸」や「珪華」は、1928年に国の天然記念物に指定されました。これは温泉水中の微生物と珪酸が化学反応して生まれる貴重な自然現象で、現在も活動が続いている世界的にも希少な存在です。

アクセスと利便性

中房温泉へのアクセスは、JR大糸線の穂高駅からタクシーまたは路線バスで約40分。4月下旬から11月中旬までは、穂高駅から中房温泉を結ぶ定期バスが運行しています。また、自家用車の場合は、長野自動車道・安曇野ICから約1時間で到着。宿泊者専用の駐車場も40台分完備されています。

まとめ ― 山の恵みと歴史が織りなす癒しの地

中房温泉は、ただの温泉ではなく、自然・歴史・文化が融合した特別な癒しの場所です。北アルプスの雄大な山々を背景に、澄んだ空気と湯けむりに包まれながら、心身ともにリフレッシュできることでしょう。古くから湯治場として愛されてきたこの地には、今も変わらぬ自然の力と人の温かさが息づいています。

登山の疲れを癒す湯として、また歴史を感じる文化遺産として、訪れる価値のある安曇野の名湯――それが中房温泉です。

Information

名称
中房温泉
(なかぶさ おんせん)

安曇野・白馬

長野県