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早稲田神社(阿南町)

(わせだ じんじゃ)

南信州阿南町に伝わる歴史と祈りの社

早稲田神社は、長野県下伊那郡阿南町の大下条早稲田地区(標高約560メートル)に鎮座する由緒ある神社です。古くから地域の人々に篤く信仰され、村の中心として精神的な支えとなってきました。境内には、神社創建当初から伝わるとされる樹齢約1300年を超える神木の大杉がそびえ立ち、訪れる人々を静かに見守っています。

主祭神と御由緒

早稲田神社の主祭神は、大山祇命(おおやまづみのみこと)応神天皇(おうじんてんのう)、そして倉稲魂命(うかのみたまのみこと)の三柱です。これらの神々は、それぞれ山の守護神、武運と繁栄の神、そして五穀豊穣の神として信仰され、地域の人々の生活と深く結びついてきました。

創立は仁寿元年(851年)と伝えられ、平安時代初期の古社として知られます。『日本三代実録』には、貞観15年(873年)に「従五位上」を授けられたという記録が残っており、すでにその時代から重要な神社であったことがうかがえます。

神社の歴史と文化財

鎌倉時代には、伊那郡で最古とされる銅製の鰐口(わにぐち)が奉納されました。この鰐口は「長野県宝」に指定されており、銘文には「岩寚寺 八王子宮 正応三年五月二十三日 勧進法橋覚舜」と刻まれています。岩寚寺は早稲田神社の神宮寺であり、当時は神仏習合のもとでこの寺に鎮守として祀られていたことがわかります。

また、江戸時代初期の再建を伝える棟札が二つ残っています。ひとつは元和2年(1616年)の「三島大明神再興」の記録、もうひとつは延宝3年(1675年)の「三島大明神社殿・八幡宮社殿再建」の記録で、これらは当時の大工や神主の名を記した貴重な史料です。

さらに、宝暦年間(1751〜1763年)以降、神社の所在地の地名が「元垣外」から「三島山」に改められたことが伝わっており、祭神・大山祇命(三島大明神)との関係が深いことがうかがえます。文化7年(1810年)には、早稲田村の庄屋と神主が吉田家に由緒書を提出し、正式に「早稲田神社」としての社号を許可されました。

近代以降の歩みと発掘

明治2年(1869年)には、伊那県知事・北小路俊昌が参拝した記録があり、この時から新たに倉稲魂命が祭神として加えられました。翌明治5年(1872年)には村社に列し、地域の中心的な神社として位置づけられます。昭和9年(1934年)には、神社裏から古銭11,293枚が発掘されました。これには漢代の五銖銭、唐代の開通元宝、元代の至大通宝など、多岐にわたる時代の貨幣が含まれており、長い歴史の中で多くの人々がこの地に祈りを捧げてきたことを物語っています。

境内の見どころ

本殿と拝殿

現在の本殿は延宝3年(1675年)に再建されたもので、南北二棟が並ぶ一間社流造です。拝殿は間口三間の立派な建物で、奥には覆屋に守られた本殿が鎮座しています。古式ゆかしい建築様式が今も大切に保存されています。

神木・日本杉

境内には樹齢1300年を超える日本杉の巨木がそびえています。昭和52年(1977年)に阿南町の文化財に指定され、地域の人々から「神の宿る木」として崇められています。その圧倒的な存在感と清らかな空気は、参拝者の心を鎮めるように佇んでいます。

舞殿と「早稲田人形芝居」

境内の舞殿では、国選択無形民俗文化財「早稲田人形芝居」が奉納されます。1月第2日曜日と8月第4日曜日に行われ、地元住民や観光客で賑わいます。

伝統芸能 ― 早稲田人形芝居

神に奉仕する「三番叟」の奉納

早稲田人形芝居は、人形浄瑠璃の形を残す貴重な民俗芸能であり、特に神に奉仕する精神が色濃く受け継がれています。中でも「三番叟(さんばそう)」の奉納は、信仰の深さを象徴するものです。毎年8月第4日曜日、早稲田神社の祭礼で行われ、母親が乳飲み子を抱いて昇殿し、笛や太鼓の音色に合わせて無病息災を祈願します。

人形を操る三人の人形使いは白い裃と袴を着て、神に仕える心を表現します。奉納が終わると、黒衣姿で舞台に立ち、三味線と浄瑠璃の音色に合わせて「三番叟」の本番が始まります。近年では、この舞を地元の中学生が担うようになり、地域の誇る伝統が次世代に受け継がれています。

神送りの儀式 ― 新年を告げる祈りの行列

1月の第2日曜日に行われる神送りの儀式も、早稲田神社に息づく土俗信仰の象徴です。神前に並ぶ人形たちは、それぞれ幣束やヤッコ草を手にし、神官の祝詞の後、行列を組んで神社を出発します。笛や太鼓、鐘の音に包まれながら、火縄銃を担いだ男たち、村人、氏子総代らが続きます。

山道を進み、神送りの場所に到着すると、神輿から神の依り代を取り出して送り、空へ一発の号砲を放ちます。その後は決して振り返らずに帰るという独特のしきたりがあり、これは「一年の災いを断ち切る」意味を持つ新年の祈願です。

アクセス情報

所在地:長野県下伊那郡阿南町西条字三島山2080

交通:最寄り駅はJR飯田線「温田駅」で、徒歩約1時間(南西へ約4.2km)の場所にあります。阿南町の自然豊かな山あいに位置し、静かな参拝を楽しめる環境です。

まとめ ― 信仰と伝統が息づく阿南の古社

早稲田神社は、千年以上の歴史を持つ阿南町の守護神として、地域の信仰と文化を今に伝える貴重な存在です。神木の大杉が語る悠久の時と、早稲田人形芝居に込められた人々の祈りの心。ここには、南信州の自然とともに生きてきた人々の信仰の原風景が今も息づいています。

Information

名称
早稲田神社(阿南町)
(わせだ じんじゃ)

阿智村・飯田

長野県