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下栗の里

(しもぐり さと)

日本のチロル 天空に浮かぶ信州の原風景

下栗の里は、長野県飯田市上村に位置する山あいの集落で、その美しい風景から「日本のチロル」と呼ばれています。南アルプスの名峰・聖岳を望む標高800〜1,000メートルの尾根にあり、最大斜度約38度という急斜面にへばりつくように民家や畑が点在しています。
まるで空に浮かぶような集落の姿は、訪れる人々に深い感動を与え、「日本の原風景が残る山の里」として知られています。

「日本のチロル」と呼ばれる理由

「日本のチロル」という愛称は、長野県立歴史館の館長を務めた歴史地理学者・市川健夫氏が名付けたものです。彼は、オーストリアのチロル地方に似た山岳地形と、人々がその地に根ざして暮らす姿に共通する美しさを見出し、この地を「日本のチロル」と呼びました。
急峻な地形に民家や畑が点在し、霧が立ち込める朝や、夕日に染まる山々の情景は、まるでアルプスの村に迷い込んだような錯覚を覚えます。

集落の暮らしと文化

下栗の里には約60戸、150人ほどの人々が暮らしており、今も農業や林業を中心に生活を営んでいます。限られた土地を大切に使い、急斜面を耕して作物を育てる姿は、先人たちの知恵と努力の結晶です。
この地では水田がなく、主な産物は「下栗いも(二度イモ)」と呼ばれる特産のジャガイモをはじめ、蕎麦やキビ、アワ、ヒエなどの雑穀類です。かつては皇室に「新嘗祭(にいなめさい)」のためのアワの穂を献上していたという記録もあり、古くからの伝統と信仰が息づいています。

特産品と郷土の味

下栗いも(二度イモ)

下栗いもは、この地を代表する特産品です。標高の高い冷涼な気候と、急斜面に広がる畑で丁寧に栽培され、小ぶりながらも甘味とデンプン値が高いのが特徴です。かつては年に2度収穫できたことから「二度イモ」と呼ばれています。
煮崩れしにくいため、地元では囲炉裏端で「二度芋の田楽」として味わうのが定番。香ばしい味噌の香りとほくほくとした食感が絶品です。

下栗豆腐

もう一つの名物が「下栗豆腐」です。昔ながらの製法で丁寧に作られるこの豆腐は、しっかりとした弾力があり、煮崩れしにくいのが特徴です。大豆の香りが豊かで、冷やして食べても、田楽や味噌汁に入れてもおいしい逸品です。

下栗そば

下栗の里では夏の終わりから秋にかけて、白い蕎麦の花が一面に咲き誇ります。標高の高い土地で育つ蕎麦は風味が強く、香り高い味わいです。収穫されたそばの実の多くは、契約栽培として都市部の専門店にも出荷されており、信州蕎麦の名品としても評価されています。

赤石銘茶

標高800〜1,000メートルの高地で育つ「赤石銘茶」も下栗の特産です。昼夜の寒暖差が大きいため、香りがよく、渋みの少ないまろやかな甘味が広がります。深い緑色の茶葉は見た目にも美しく、訪れた際にはぜひ味わいたい逸品です。

観光施設と人々のもてなし

下栗の里には、地元の女性たちが運営するそば処「はんば亭」があります。地元のそば粉を使った手打ちそばや、下栗いも料理を楽しむことができ、里の景色を眺めながら味わう食事は格別です。
また、農産物直売所や、木工品や家具を制作・販売する「手仕事工房 山のみのりや」など、地域の魅力を活かした施設が点在しています。宿泊は「高原ロッジ下栗」や、民宿「みやした」「ひなた」などがあり、地元の人々との温かい交流も旅の魅力のひとつです。

天空の里ビューポイントと絶景

2009年には、下栗の里全体を見渡せる「天空の里ビューポイント(おおぎびら展望台)」への遊歩道が整備されました。展望台からは、段々畑と民家が折り重なる美しい集落の姿と、雄大な南アルプスの山々が一望できます。
朝日が足元から昇るような感覚を味わえるこの場所は、まさに「天空の里」の名にふさわしい絶景ポイントです。

四季折々の魅力と風景

下栗の里は、「にほんの里100選」にも選ばれており、季節ごとに異なる魅力を見せます。
春には新緑が輝き、夏には一面の蕎麦の花が白く咲き乱れます。秋には紅葉が山を染め、冬には雪景色が静寂を包み込みます。どの季節に訪れても、自然と人の暮らしが織りなす温かい風景に心が癒やされます。

夕陽に染まる「信州のサンセットポイント」

また、下栗の里は「信州のサンセットポイント百選」のひとつにも選ばれています。夕暮れ時、集落と南アルプスの峰々が黄金色に染まり、幻想的な光景が広がります。山々に沈む夕陽と、静かに佇む家々のコントラストは、まさに絵画のようです。

おわりに

下栗の里は、単なる観光地ではなく、人々が自然と共に生き続けてきた生活の場です。厳しい自然環境の中でも、豊かな文化と温かい人情が息づいており、訪れる人に「本当の日本の原風景」を感じさせてくれます。
南アルプスの雄大な山々を背景に、人々の暮らしが息づくこの地は、まさに「日本のチロル」と呼ぶにふさわしい、信州の宝です。

Information

名称
下栗の里
(しもぐり さと)

阿智村・飯田

長野県