りんご並木は、長野県飯田市の中心部に位置する約400メートルにわたる美しいリンゴの木の並木道です。昭和の時代に起きた飯田大火の復興を象徴する取り組みとして誕生し、現在では「日本の道100選」および「かおり風景100選」にも選ばれるなど、全国的にも知られる飯田市のシンボルとなっています。
りんごの花が咲く春には純白の花々が通りを彩り、秋には赤い実が枝を垂らすその風景は、訪れる人々の心を和ませ、地元の人々にとっても誇りとなっています。ここでは、その歴史や見どころ、地域の人々との関わりについて詳しくご紹介します。
りんご並木がある通りは、全長およそ1キロメートルに及びますが、実際にリンゴの木が植えられている区間は約450メートルです。通りの南端には飯田市立動物園があり、北側には大宮神社が位置しています。特に「ハミングパル」と呼ばれる人形時計塔を境にして北側は桜並木が整備され、春にはリンゴと桜、両方の花を楽しむことができます。
りんご並木の最大の特徴は、一般的な街路樹とは異なり、飯田市立飯田東中学校の生徒たちの手で植えられ、今もなおその手によって守り育てられている点です。植樹当初から70年以上が経過した今でも、毎年生徒たちが施肥・剪定・草取り・収穫などを行い、りんご並木の美しさを保っています。
1947年(昭和22年)4月20日、飯田市は「飯田大火」と呼ばれる大規模火災に見舞われ、市街地の約4分の3を焼失しました。この大火の経験から、再び同じ惨禍を繰り返さないようにと、防火帯を兼ねた広い道路の整備が計画されました。その際、防火帯の中央分離帯に植えられたのが、飯田東中学校の生徒たちによる40本のリンゴの苗木でした。
彼らは「りんごの実が輝く美しいまちに」という願いを込めて植樹を行い、これが現在のりんご並木の原点となりました。この活動は次第に地域の誇りとして受け継がれ、飯田のまちは「りんご並木のまち」として知られるようになったのです。
飯田東中学校では、創立以来「並木委員会」という生徒組織が中心となり、りんご並木の維持管理に取り組んでいます。肥料の散布、剪定、除草、そして実りの季節には収穫と、年間を通じて多くの作業が行われています。
収穫されたリンゴは給食で生徒たち自身が食べるほか、飯田市内の小中学校や福祉施設に「愛のリンゴ」として無償で配布されます。さらに、2011年の東日本大震災では、被災地へも届けられ、多くの人々を励ましました。
りんご並木は、時代とともに町の発展とともに変化を重ねてきました。自動車の普及が進んだ1960年代以降は、車道とリンゴの木の共存が難しくなりましたが、市民や生徒の努力によりその景観は守られ続けました。
しかし、年月の経過とともに老木化や樹勢の低下が目立つようになり、飯田市では新たな整備計画が立ち上げられました。2000年代に入ると、飯田東中学校や15の市民団体による「りんご並木まちづくりフォーラム」が発足し、次世代に誇れるりんご並木を目指す取り組みが進められました。
その結果、1999年(平成11年)には並木全体が公園として整備され、歩道と車道の区分けをなくした「歩行者優先の空間」となりました。通り沿いにはベンチや水場も設けられ、現在では散歩や通学路として地域の人々に親しまれています。
りんご並木の南端には、家族連れに人気の飯田市立動物園があります。また、近隣には日本を代表する人形アニメーション作家・川本喜八郎の作品を展示する飯田市川本喜八郎人形美術館もあり、文化と自然の両方を楽しむことができます。
りんご並木を歩けば、四季折々の美しい風景とともに、飯田のまちが持つ温かみや再生への誇りを感じることができるでしょう。
りんご並木はその美しさと地域活動の模範的な姿勢から、数々の賞を受賞しています。1986年には旧建設省が選定する「日本の道100選」に、2002年には環境省の「かおり風景100選」に選ばれました。また、地元の取り組みは「美しい信州の景観づくり功労賞」(2001年)としても表彰されています。
さらに、りんご並木の育成活動は「博報賞」や「文部大臣激励賞」を受賞し、教育面からも高い評価を受けています。2016年には、天皇・皇后両陛下が訪問され、生徒たちの活動を温かく見守られました。
70年以上にわたる歴史を持つりんご並木は、今もなお飯田市民の心の支えとして生き続けています。春の花、夏の緑、秋の実り、冬の雪化粧――その四季折々の姿は、まるで飯田の人々の暮らしや願いを映す鏡のようです。
防火帯としての機能を果たしながら、芸術や教育、そして地域の絆を育んできたりんご並木は、単なる街路樹ではなく「まちの歴史と未来をつなぐ道」と言えるでしょう。
訪れた人々がこの通りを歩くとき、そこに流れる静かな時の中で、復興への願いと地域の誇りを感じ取ることができるはずです。飯田市を訪れる際には、ぜひこの美しいりんご並木をゆっくりと散策してみてください。まるで物語の中に迷い込んだような、優しく温かな時間があなたを包み込むことでしょう。