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飯田市美術博物館

(いいだし びじゅつ はくぶつかん)

自然と芸術が融合する文化の殿堂

飯田市美術博物館は、長野県飯田市に位置する市立の総合文化施設で、美術館と博物館の両機能を併せ持つユニークな施設です。飯田の自然や文化、そして芸術を一体的に紹介する場として、市民や観光客から広く親しまれています。

この美術博物館は、「伊那谷の自然と文化」を基本テーマに掲げ、自然科学・人文科学・美術の各分野にわたる貴重な資料を収集・保存・展示しています。また、市民や研究者の学びの場として、調査研究や教育活動にも積極的に取り組んでおり、地域の知的・文化的発展に大きく寄与しています。

南アルプスをモチーフにした建築美

飯田市美術博物館の建物は、著名な建築家原広司アトリエ・ファイ建築研究所による設計です。鋸刃(のこぎりば)状の屋根は、館の東側にそびえる南アルプスの山並みをイメージしてデザインされており、自然との調和を感じさせる造形が特徴です。外観は一見するとモダンでありながら、周囲の山々や青空と見事に溶け込み、訪れる人々に深い印象を与えます。

館内には、市民が自身の作品を展示できるギャラリー・スペースも設けられており、地元アーティストの創作発表の場としても活用されています。このように、飯田市美術博物館は単なる展示施設ではなく、市民参加型の「生きた文化拠点」として発展しています。

日本で唯一のスピノサウルス常設展示

博物館の自然科学部門では、恐竜や化石などの展示も充実しています。特に注目されているのが、日本で唯一常設展示されている「スピノサウルス」の全身復元骨格です。全長約15メートルにも及ぶ巨大な姿は迫力満点で、来館者の目を引きつけます。

スピノサウルスは白亜紀後期に生息していた肉食恐竜で、背中に大きな帆のような突起を持つことで知られています。その姿は子どもたちにとっても大人気で、科学への興味をかき立てる展示のひとつとなっています。

飯田城跡の地に建つ歴史ある場所

現在、美術博物館が建つこの地は、かつて飯田城二の丸跡でした。明治以降は教育の場として利用され、1884年には「長野県中学校飯田支校」(のちの長野県飯田高等学校)が設立されました。その後、1925年に上郷村へ移転し、続いて「長野県飯田長姫高等学校」が建設されました。高校が1982年に鼎町へ移転したことにより、この地は再び新しい文化施設として生まれ変わることになります。

飯田市美術博物館の建設計画は、地元出身の画家菱田春草の記念館を望む市民の声と、地域の自然や文化を紹介する博物館を求める声が合わさって生まれました。1983年に準備事務局が設置され、1987年に着工。1988年にプレオープン、そして1989年(平成元年)10月8日、ついに正式開館を迎えました。これは飯田市市制施行50周年を記念する事業の一環として実現したものです。

春の名所 ― 長姫のエドヒガン「安富桜」

館の前庭には、飯田市を代表する一本桜「安富桜(やすとみざくら)」がそびえ立っています。この桜は別名「長姫のエドヒガン」とも呼ばれ、長野県の天然記念物に指定されています。幹回り約6メートル、高さ約20メートルの見事な姿を誇り、春には淡紅色の花が一斉に咲き誇ります。

この桜は、飯田藩初代藩主堀親昌の時代に植えられたと伝えられ、樹齢はおよそ400~450年と推定されています。もともとこの地は、飯田藩家老・安富氏の邸宅跡であり、近年ではその名にちなみ「安富桜」と呼ばれるようになりました。満開の時期には、地元住民や観光客が訪れ、華やかな花と飯田の春の風情を楽しむ姿が見られます。

飯田が誇る日本画家 ― 菱田春草の常設展示

飯田市美術博物館の最大の特色のひとつは、飯田市出身の日本画家・菱田春草(ひしだ しゅんそう)の作品展示です。春草は横山大観、下村観山と並び、明治期の日本画の革新に大きく貢献した人物として知られています。岡倉天心の門下生であり、従来の日本画に欠かせなかった輪郭線を廃した「無線描法」を試み、「朦朧体(もうろうたい)」と呼ばれる独自の画風を確立しました。

代表作には『菊慈童』や『秋景(渓山紅葉)』などがあり、後年には琳派の要素も取り入れ、より洗練された表現を追求しました。晩年の作品『落葉』は、日本画における空間表現の革新として高く評価されています。

春草の作品は、長く常設展示が難しかったのですが、2017年に遺族から多数のスケッチや下絵、未完成作品が寄贈されたことにより、「春草記念室」が設置され、常設展示が実現しました。春草の人生と芸術の軌跡を間近に感じられる貴重な空間として、多くの来館者を魅了しています。

利用案内とアクセス

飯田市美術博物館の開館時間は午前9時30分から午後5時までで、休館日は毎週月曜日(祝日の場合は翌日)および祝日の翌日、年末年始(12月29日~1月3日)です。展示入れ替えや燻蒸作業のため、臨時休館となる場合もあります。

アクセスは、飯田市街地中心部から徒歩圏内で、公共交通機関や車のいずれでも便利に訪れることができます。周辺には飯田城址公園やりんご並木など、散策にぴったりの観光スポットも点在しており、美術館見学と合わせて楽しめます。

まとめ ― 自然・歴史・芸術が交わる場所

飯田市美術博物館は、「自然・歴史・芸術の融合」を体現する文化施設です。南アルプスを望む美しい建築、古桜「安富桜」の優美な姿、そして日本画界の天才・菱田春草の魂が息づく作品群。そのすべてが調和し、訪れる人々に深い感動を与えます。

ここは、単なる観光地ではなく、飯田の人々の誇りと文化の記憶が息づく場所。四季折々の自然の中で、芸術と歴史に思いを馳せながら、心豊かなひとときを過ごすことができるでしょう。

Information

名称
飯田市美術博物館
(いいだし びじゅつ はくぶつかん)

阿智村・飯田

長野県