福島宿は、中山道六十九次のうちの第37番目の宿場であり、現在の長野県木曽郡木曽町福島に位置しています。古くから木曽谷の中心地として交通・文化・経済の要衝を担い、また江戸幕府による厳重な交通統制を象徴する福島関所が設けられていたことで知られています。中山道を行き交う旅人たちが一息つく宿場町として栄え、今もその歴史と面影を色濃く残しています。
福島宿の北入口に位置していた福島関所は、江戸幕府が全国の交通を管理するために設けた関所の中でも、特に重要な役割を果たしていました。諸国関所一覧表によると、所在地は信濃国筑摩郡であり、管理は山村甚兵衛家が担当し、尾張藩木曽代官の支配下にありました。
この関所は、東海道の「今切関所」「箱根関所」と並び称されるほど厳重で、木曽路における最大の監視拠点として機能していました。特に「出女入鉄砲」の取締りにおいては極めて厳格であり、木曽路を通行する者はここでの検問を免れることができなかったと伝えられています。
発掘調査の結果、番所や門、塀などの構造物の配置が確認され、当時の関所の様子が明らかとなりました。昭和54年(1979年)には、江戸幕府の交通政策史を知る上で極めて重要な遺構として「福島関跡」の名称で国の史跡に指定されました。現在は復元された門や塀を含む福島関所資料館として一般公開されており、当時の通行証や文書、武具などが展示されています。
天保14年(1843年)の『中山道宿村大概帳』によると、福島宿には158軒の家屋が立ち並び、そのうち本陣1軒、脇本陣1軒、旅籠が14軒ありました。宿内の人口は972人と記録されており、宿場として大いに賑わっていた様子がうかがえます。
木曽谷を代表する要所であったため、多くの旅人や商人が行き交い、町は文化と経済の交流拠点として発展しました。今も福島宿の町並みを歩くと、当時の風情を残す石畳や格子戸の町屋が見られ、江戸時代の旅情を感じることができます。
宿場の北端に位置する福島関所資料館では、関所の構造を忠実に復元し、当時の通行制度や木曽代官の職務について紹介しています。江戸時代の通行手形や関所印、関守の装束などが展示され、厳重な取締りの実態を知ることができます。
高瀬資料館は、作家島崎藤村の姉の嫁ぎ先であり、藤村ゆかりの品々を展示しています。藤村の代表作「初恋」にちなんだ遊歩道「初恋の小径」も整備されており、文学の香り漂う静かな散策路として人気です。
観光文化会館は無料休憩所として利用でき、地域の特産品や観光情報が展示されています。周辺の上ノ段地区には、江戸時代の面影を残す「江戸小路エリア」があり、風情ある用水路沿いを歩くと、往時の宿場の姿が蘇ります。
山村代官屋敷(やまむらだいかんやしき)は、代々木曽代官および福島関所の関守を務めた山村甚兵衛家の屋敷であり、現在は史跡として公開されています。享保8年(1723年)に再建された木造平屋建ての建物で、庭園は木曽駒ヶ岳と永田山を借景とする見事な池泉回遊式庭園です。
敷地内では、山村家に伝わる文学・美術資料の展示が行われており、江戸時代の代官家の暮らしぶりを間近に感じることができます。
木曽福島郷土館は、木曽谷の歴史・文化・民俗を幅広く紹介する資料館です。ヒノキ林に囲まれた静かな立地にあり、鉄筋2階建の館内には約5000点もの資料が収蔵されています。民俗園には開田村から移築された古民家や郷蔵が並び、木曽の生活文化を体感できます。
興禅寺は、木曽氏・山村氏の菩提寺として知られ、地域の精神的中心として長く信仰を集めてきました。静寂の中にたたずむ伽藍は、訪れる人々の心を穏やかにしてくれます。
長福寺は「やまぼうしの咲く寺」として知られ、初夏には境内が白い花々で彩られます。興禅寺、大桑村の定勝寺とともに「木曽三大寺」と称される名刹です。
町内に佇む静かな寺院で、地域の人々の信仰を今に伝えています。
福島宿の南に流れる木曽川は、宿場町の風情を引き立てる清流です。川沿いには「木曽川崖屋造り」と呼ばれる独特の建築様式が見られ、断崖に張り出すように建てられた家々は、木曽ならではの景観を形成しています。
また、上松宿に向かう途上にある木曽の桟(かけはし)は、断崖に橋を架けた古の難所として知られ、松尾芭蕉や正岡子規もこの地を詠に残しました。
福島宿は多くの文化人とも関わりがあります。島崎藤村は幼少期をこの地で過ごし、彼の文学に木曽の自然と人々の情景が深く刻まれています。また、木曽代官として福島関所を管理した山村蘇門や、地域の発展に尽くした遠藤五平太など、数々の人物がこの地の歴史を彩りました。
福島宿は、江戸時代の中山道を代表する宿場町として、今なお当時の風情を色濃く残す歴史の街です。厳格な福島関所を中心に、代官屋敷や資料館、文学ゆかりの地が点在し、訪れる人々に木曽路の豊かな歴史と文化を伝えています。木曽の自然と人の営みが調和するこの地で、古の旅人たちが感じた息づかいを、現代の旅でも感じることができるでしょう。