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すんき漬

先人の知恵によって作られた漬物。江戸時代は年貢として上納

「すんき漬」は、活きた乳酸菌の防腐性を利用した食塩無添加の漬物。開田村を中心とした山深い地方では、古くから保存食として常食されてきた。毎年、秋になると漬け床へ赤かぶの「かぶ菜」をつぎたし、乳酸菌を増やす。冬の野菜不足を補うための、古人の知恵をそのまま受け継いだ伝統的な漬物で、ヨーグルト、乳酸菌飲料等と同じように乳酸菌による漬物のため「すっぱさ」が特徴となっている。すんき漬けの歴史は古く、約300年前の江戸時代に、藩に年貢として差し出した記録が残されている。

旬 10月 11月 12月 1月 2月

山深い木曽地域は古くから独自の食文化が根付いており、そのひとつに赤かぶの葉を使った「すんき漬け」がある。すんき漬けとは赤かぶの葉を塩を一切使わずに「すんき種」を加えて乳酸発酵させた無塩の漬物のことで、木曽地域に古くから伝わる発酵食品で「すんき」ともいう。
まだ流通や交通がなかった時代は、「米は貸しても塩は貸すな」といわれたほど、海から遠く離れ山深い木曽谷では塩は大変貴重品だった。塩を節約するために、生活の知恵から生まれたこのすんき漬けは、独特の酸味があり、一般的な漬物とは異なる味わいを持つ。歴史は定かではないが、芭蕉一門の連句会で「木曽の酸茎(すんき)に春も暮れつつ」と詠んでいることや、約150年前の古文書にもすんき料理が出されたと記されていることから、少なくとも300年以上前にはあったといわれている。原料となる赤かぶは木曽地域で古くから栽培されてきた「木曽かぶ」を用いる。木曽かぶには「開田かぶ」「王滝かぶ」「三岳黒瀬かぶ」「吉野かぶ」「芦島かぶ」「細島かぶ」と地元に根付いた6種類のかぶがある。かぶが持つ自然の乳酸菌は、特に茎と根の付け根の部分に多く含まれているといわれている。また、かぶが持つ乳酸菌の微妙な違いなのか風土の違いか、他所ですんきを漬けても同じようにはならないという。昔は、山に自生する小梨(ズミ)や山葡萄などの実をたたいてつぶし、発酵させたものを「すんき種」として用いた。今では、前の年に漬けたすんき漬けを干しておいたり、冷凍したりものを「すんき種」として用いている。最近の研究では、すんきにはヨーグルトに匹敵するほどの乳酸菌があるといわれ、300種類以上もある乳酸菌の中からすんき漬けに向くものが4種類ほどあることが分かっている。平成15年からすんき乳酸菌の本格的な研究が東京農業大学教授によりおこなわれ、その4種類の乳酸菌を使ったすんき種(スターター)の試作テストが進められている。

主な伝承地域:木曽地域
主な使用食材:赤かぶ

すんき漬け(すんきづけ、単に「すんき」とも呼ばれます)は、長野県木曽地方の伝統的な発酵食品で、土着品種の赤カブを使用した発酵漬物の一種です。

赤カブの葉茎を湯通しし、漬け種と一緒に無塩で漬け込んで乳酸発酵させることで作られます。この過程で乳酸菌などの微生物が解糖系の副産物として乳酸を生み出し、特有の酸味と風味が生まれ、長期保存が可能になります。冬季に限定して漬けられ、主に冬から早春にかけて食べられます。ちなみに、京都府で作られる「すぐき漬け」という似た名前のものは、食塩を加えて温和な加熱処理を施し、発酵を促進させるための方法を用いており、すんき漬けとは異なる発酵漬物です。

一般的な浅漬けとは異なり、通常は食塩を使用して腐敗菌や食中毒菌の繁殖を抑えることが行われます。しかし木曽地方は山間の地域で海から遠く、塩が貴重な資源であったため、野菜の保存には塩を多く使うことが難しかったと言われています。そのため、塩を使用せずに発酵させる方法が生まれたと考えられています。ただし、木曽地方でも特に寒冷な地域でなければ、酸味が強くなったり茎が柔らかくなったりするなど、美味しいすんき漬けを作ることが難しいとされています。同様の無塩漬物には、新潟県の「いぜこみ菜」や「ゆでこみ菜」、福井県の「すなな漬」などがありますが、現在はあまり生産されていないようです。

すんき漬けは、材料を湯通しすることで雑菌を殺菌し、乳酸菌の増殖を促進する環境を整え、低温下で保存することで雑菌の繁殖を抑えます。乳酸と低温の組み合わせによって、雑菌の増殖が制御される仕組みです。低温を保つことは品質にも影響し、平均気温が0℃を超えると品質が損なわれることが報告されています。すんき漬けは仕上がり時にpH値が約4.5になると、ちょうど良い酸味と最高の風味を持つとされています。平均気温が0度を上回ると、漬け込んでから約9週間でpH値が約3.0まで低下し、色が緑灰色に変わり、風味と保存性が劣化するとされています。

栄養と効果

すんき漬けは、元々のたんぱく質含有量がほとんど低下せずに保存されるため、冬季におけるたんぱく源として価値がありました。これは、原料中のたんぱく質分解酵素が湯通しによって不活化され、さらに塩分がほとんど使用されないため、塩分を少量含む浅漬けと比べて酵素の活性が低下するためと考えられています。

また、すんき漬けには、アレルギー症状の一因となるIgE抗体を抑制する乳酸菌が含まれており、その中の特定の菌株は動物実験においてアレルギー性下痢を抑制する効果が示されています。しかし、すんき漬けの摂取とアレルギー性疾患の有無との関連性についての疫学調査では、有意な相関は見られなかったと報告されています。

利用方法

すんき漬けは独特な酸味とシャキシャキした食感が特徴で、さまざまな方法で楽しむことができます。塩分を含まないため、適当な長さに切って削った鰹節や醤油をかけて、ご飯と一緒に食べるほか、お茶うけとしても楽しまれます。また、日常料理の材料として炒めたり、煮たり、そばやうどんの具材としても利用され、さまざまな形で食卓に登場します。冬に漬け込まれたすんき漬けは、早春になると取り出して自然乾燥させ、乾燥すんきとしても利用されます。これはすんきの種としても使用できるほか、水で戻して料理にも利用可能であり、早春以降も保存食として楽しまれています。

Information

名称
すんき漬

木曽

長野県