ローメンは、長野県伊那地方に伝わる独自の麺料理で、羊肉と野菜を炒め、蒸した太めの中華麺を加えて作られます。中華風のスープを加えるタイプと、スープを加えないソース焼きそば風のタイプがあり、いずれもラーメンとも焼きそばとも異なる独特の風味を持っています。その味わいは、一度食べると忘れられないと評されるほどで、伊那市を代表するご当地グルメのひとつです。
ローメンには、小麦粉にかんすいと着色料としてのビタミンB2を加えた中太の中華麺が使われます。特に、伊那市の老舗「服部製麺所」が製造する蒸し麺が定番で、全国の焼きそば用の蒸し麺よりもやや茶色がかっていて、弾力のあるしっかりとした食感が特徴です。この麺こそがローメンの味の基盤を作っています。
具には、羊肉(マトン)を中心に、キャベツやキクラゲなどの野菜が使われます。マトン特有の香りが苦手な人のために、豚肉や牛肉を使用するお店もあり、その場合は「トンローメン」や「ギュウローメン」と呼ばれます。お店ごとにスープやウスターソースなど独自の味付けを行い、ニンニクを効かせて再度炒め上げるのが一般的です。
ローメンには、スープに半分浸かったラーメン風のタイプと、汁気の少ない焼きそば風のタイプのほか、カレー味や冷やしローメンなどもあります。店ごとにアレンジが異なり、同じ「ローメン」という名前でもまるで別の料理のような個性を楽しめるのが魅力です。
ローメンの食べ方にも特徴があります。一般的に、一味や七味唐辛子が定番の薬味として添えられますが、そこにソース、酢、ごま油、ラー油、すりおろしニンニクなどを好みで加えることで、自分だけの味を作り上げることができます。こうした自由なアレンジの楽しみも、ローメンが地元で長く愛される理由の一つです。
ローメンは、1955年(昭和30年)に伊那市の中華料理店「萬里」の主人、伊藤和弌(いとうわいち)氏が考案した料理です。当時、冷蔵設備が普及しておらず、生麺の保存に苦労していた伊藤氏は、麺を蒸すことで日持ちを良くする方法を発見しました。この「蒸し麺」を使って作った新しい料理が、現在のローメンの原型となったのです。
当時の伊那地方では、羊毛生産のためにマトンが多く飼育されており、その副産物としての肉を料理に使用することができました。また、キャベツも地元で盛んに栽培されていたため、ローメンの主要な具材として自然に取り入れられました。これらの地域資源を活かした知恵が、ローメン誕生の背景にあります。
最初は「炒肉麺(チャーローメン)」という名前で提供されていましたが、次第に略されて「ローメン」と呼ばれるようになりました。その後、伊藤氏は地域活性化のため、ローメンの名称を誰でも自由に使えるようにしたため、伊那市内の多くの店に広まりました。現在では家庭料理や学校給食にも登場し、地元に根付いた郷土料理として定着しています。
1994年には、伊那市がローメンをまちおこしの一環として取り上げ、「ローメン委員会(現ローメンズクラブ)」が設立されました。2004年には、「萬里」本店近くにローメン発祥の地の記念碑も建立され、6月4日は語呂合わせで「蒸し(むし)の日」として、各店で特別価格でローメンが提供されています。
ローメンは「B-1グランプリ」などの全国的なイベントにも出場し、伊那市の名を広める役割を果たしてきました。地元団体「伊那ローメンズクラブ」や「伊那ローメンZUKUラブ」などが中心となり、今もその味と文化を守り続けています。
現在、伊那市内のスーパーや土産物店では、ローメンの麺や調味料、マトンがセットになった家庭用商品が販売されています。「萬里」や「シャトレ」といった老舗の味を家庭で再現できるほか、服部製麺所の蒸し焼きそばを購入して好みの具材で作る人も多くいます。また、汁なしローメンを中華まんの具にした「ローメンまん」も人気商品として登場しています。
ローメンは、戦後の創意工夫と地元食材から生まれた、伊那市ならではの郷土料理です。自由に味を調整できる楽しさ、家庭でも手軽に作れる親しみやすさ、そして地域の誇りとしての歴史が調和した一品です。伊那市を訪れた際は、ぜひ本場のローメンを味わい、その奥深い風味と文化を体感してみてはいかがでしょうか。